相続税対策と言えば真っ先に思い浮かぶのが「養子」かも知れません。確かに、養子縁組をすることによって、全体の相続税額は減少します。ただ、メリットがあればデメリットもあるのが世の常ですね。
今回は、養子縁組による相続対策についてじっくり確認していきましょう。

そもそも養子ってどんな制度?

養子は養親と養子縁組をすることによって、その養親の「子」になるという民法上の制度です。民法上では、何人でも何十人でも何百人でも養子になることができます。

そして、養子になることにより、養親の財産を相続する権利を有することになります。財産をあげたい人がいれば、遺贈(遺言による贈与)よりも養子にする方が確実ですので、
比較的、世の中に広まっている制度と言えます。

そんな養子ですが、実は、養子には普通養子と特別養子という2種類があります。すごく簡単に言いますと、普通養子は「条件付きの子」、特別養子は「実子扱い」と覚えておくと良いでしょう。

普通養子

通常、養子と言えばこの普通養子を指し、相続税対策の養子縁組と言えば普通養子になります。

普通養子は、養子縁組をすることで養親と親子となり、かつ、実親との親子関係もそのままであることが特徴です。

一般的には、相続権がない連れ子や孫などを普通養子として、相続権を持ってもらうというケースが多いです。

特別養子

特別養子は、実親との親子関係を終了させて、養親と親子関係を結びます。したがって、普通養子よりも「強い」関係にあると言えます。

特別養子になるには、以下の全ての要件を満たす必要があります。

6歳未満であること(一定の場合には8歳未満)
・実親の監督が著しく困難又は不適当であること
・養親には配偶者がいること
・養父母のいずれか一方が25歳以上であること

特別養子は実子扱いですので、普通養子よりも要件が厳しくなっているんですね。特別養子の場合は、相続税対策というニュアンスは合わないかも知れません。

養子縁組できない人

年長者と養子縁組をすることはできません。年長者が「子」になるというのはおかしいですよね。
同じ理由で、直系尊属(父母・祖父母)とも養子縁組をすることはできません。

養子の節税効果

「相続対策=養子」と言われる根拠が、この節税効果になります。養子があることによって、相続税法上、以下のような節税メリットがあります。

相続税の基礎控除が増える

相続税の基礎控除は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」ですので、養子が法定相続人となれば、単純に1人あたり600万円の基礎控除が増えることになります。

ただし、普通養子を法定相続人の数に含めるには制限があります。

■被相続人(亡くなった方)に実子がない場合

2人まで
(600万円×2=1,200万円)

■被相続人に実子がある場合

1人まで
(600万円×1=600万円)

なお、特別養子の場合は実子扱いですので、何人いても法定相続人の数に含めることができます。

死亡保険金、死亡退職金の非課税限度枠が増える

死亡保険金、死亡退職金の非課税限度枠は、いずれも「500万円×法定相続人の数」ですので、養子が法定相続人になった場合には、1人あたり500万円の非課税限度枠が増えます。死亡保険金、死亡退職金の両方がある場合には、1人あたり1,000万円の非課税限度枠が増えることになります。

なお、ここでいう法定相続人の数に含まれる養子の数は、基礎控除のところでお話した数と同じになります。

相続税の実質税率が下がる

相続税は超過累進税率が適用されますので、1人あたりの相続財産が多くなればなるほど相続税の負担額は上がります(限度はあります)。

この際の計算方法ですが、財産を法定相続分で取得したものとみなして計算をしますので、法定相続人に含まれる養子が多ければ、その分だけ1人あたりの相続財産は減ります。したがって、全体の相続税額も少なくなることになります。

例)
相続財産1億円、法定相続人は配偶者と子1人の場合

■養子なし

法定相続人の取得財産:1億円×1/2=5,000万円
相続税額:5,000万円×20%-200万円=800万円×2=1,600万円

■養子あり(1人)

・配偶者
取得財産:(1億円-600万円)×1/2=4,700万円
相続税額:4,700万円×20%‐200万円=740万円

・子
取得財産:(1億円-600万円)×1/2×1/2=2,350万円
相続税額:2,350万円×15%-50万円=302万5千円×2=605万円
合計:740万円+605万円=1,345万円

■養子ありと養子なしの場合の差額

1,600万円-1,345万円=255万円

結構な差になりますね。

孫が養子になった場合、一代飛ばしができる

孫の相続は、被相続人⇒子(孫の親)⇒孫となりますが、孫を養子にした場合は、

被相続人⇒孫

となりますので、一代早く相続をすることができますので、相続対策としては有用です。
ただし、孫養子の場合は相続税の2割加算の規定が適用されますので、「相続税額×1.2」が孫の納税額となります。

孫養子が得か損かは、ケースによって異なることになりますのでご留意下さい。

養子のデメリット

節税の観点から養子のメリットを確認しましたが、デメリットはあるのでしょうか。具体的には、次の4点がデメリットになります。

本来の相続人の取り分が少なくなる

養子=相続人が増えますので、本来の相続人は元々の取り分よりも少なくなります。例えば子が3人だった場合、本来は1/3が取り分ですが、4人になると、1/4になってしまいます。
これは、本来の相続人からしますと面白い話ではないですね。

相続人が増えるので遺産分割が速やかに行われなくなる

相続人の数だけ言い分はありますので、養子をとることによって相続人が増えるということは、遺産分割がそれだけ進まなくなることが想定されます。

一定の期間までに遺産分割ができないと、小規模宅地の特例や配偶者の税額軽減ができなくなってしまいまうというデメリットが生じます

兄弟姉妹(甥姪含む)を養子にすると配偶者の税額軽減が少なくなる

法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、配偶者の取り分は3/4になります。そして、配偶者は法定相続分については配偶者の税額軽減により相続税はゼロになります。つまり、3/4の財産は無税で相続できることになります。

しかし、兄弟姉妹(甥姪含む)を養子にした場合は、配偶者と子(養子)の相続になりますので、配偶者の取り分は1/2となり、配偶者の税額軽減も1/2相当額となります。

よって、単純計算をすると3/4-1/2=1/4相当の相続税額が負担増となります。

姓が変わる

民法810条に「養子は養親の姓を称する」とあり、養子は養親の姓に変える必要があります。養子にとっては、かなりのデメリットかも知れませんね。

今日まで冨田だった姓が明日から佐藤になると言われたら、僕もちょっと考えてしまいます。。。

節税目的の養子縁組に対する最高裁判決

相続税の節税目的で養子を増やすのはケシカラン!

というのが課税庁の意見です。なので、養子を巡って裁判になるケースは結構あります。この関係に終止符を打つかも知れないのが、平成29年1月31日の最高裁判決です。

判決内容を至極要約すると、

「節税目的の養子縁組は有効」

だそうです。

もちろん、当事者間に縁組をする意思があることが前提ですが、結構驚きの判決ですね。

最高裁判決では、

「相続税節税対策という動機と養子縁組に必要な縁組の意志は共存し得る」

としています。課税庁は、「相続対策だけだ!」と言う訳ですが、「当然それもあるけど・・・」と反論することができるということですね。

この判決により、今後は節税目的の養子縁組が増えるかも知れませんね。

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