以前に、「ストックオプションの税制適格・非適格と確定申告のタイミング」という記事をアップしたところ、僕が想像していた以上の反響がありました。
それに伴い、「有償ストックオプション」のお問い合わせも増えていますので、今回は有償ストックオプションの仕組や確定申告での取り扱いについて、お話していきます。
もくじ
1.有償ストックオプションとは
有償ストックオプションは、文字通り「有償で」ストックオプションを付与するものになります。通常のストックオプションは無償発行ですが、これを有償にすることにより、ストックオプション税制の適用を受けません。
ストックオプション税制が適用されると、適格か非適格かの判定をし、権利行使時に、適格であれば給与課税なし、非適格であれば給与課税ありという課税関係が生じます。
(詳しくは以下の記事をご参照下さい。)
しかし、有償ストックオプションの場合はストックオプション税制の適用を受けませんので、権利行使時に給与課税はされません。すなわち、適格ストックオプションと同様の効果を得ることができます。
適格ストックオプションの要件はかなり厳しく、特に権利行使金額の制限(年間1,200万円)が足枷になっています。これを回避し、かつ、権利行使時に給与課税が行われない、有償ストックオプションが台頭してきたのは、納得の話ですね。
2.有償ストックオプションのメリット
有償ストックオプションのメリットは、付与者の場合は権利行使時に給与課税がされないことです。また、権利行使の条件を厳しくすることによって、ストックオプションの発行価格を抑えることができます。発行価格が、時価の1%未満というのも珍しくありません。
これも付与者の大きなメリットの1つですね。もちろん、あまりに達成できないような条件ですと権利行使するタイミングがありませんので、この辺のバランスは難しいですが。。。
次に、発行者にとってはどんなメリットがあるのでしょうか。主に、以下の3点が挙げられます。
(1)公開会社の場合、取締役会決議で発行可能
ストックオプションを発行する場合、株主総会の決議事項になります。しかし、公開会社(株式の譲渡制限がない会社)で、かつ、有利発行でない場合は取締役会決議によることができます。そのため、ほとんどの有償ストックオプションの場合、公開会社であれば取締役会決議で発行することができることになります。
なお、非公開会社の場合は通常通り株主総会決議となりますが、そもそも株主がほとんどいないケースが多いでしょうから、そこまで問題にはならないのかなと思います。
(2)発行会社の損益計算書に対するインパクトがない
ストックオプションを有利発行した場合、給与や役員報酬といった費用が発生します。しかし、有償ストックオプションの場合は、現行の会計基準では損益計算書にインパクトがありません。有償の払込部分について、以下の処理を行うだけです。
(預金等)××× (新株予約権)×××
※新株予約権は純資産を構成します
(3)短期間で権利行使可能な仕組を作ることができる
適格ストックオプションの場合、権利行使まで最短でも2年かかりますが、有償ストックオプションの場合は、設計上、1年で権利行使することも可能です。ただし、期間が短くなるとストックオプションの価格が上がってしまう可能性がありますので、一概にはメリットとは言えませんが。。。
3.有償ストックオプションのデメリット
有償ストックオプションは良いこと尽くめに見えますが、もちろんデメリットもあります。
(1)付与者のデメリット
有償発行ですので、先に金銭を払い込む必要があります。発行価格が高ければ高いほど、デメリットも大きくなりますね。
(2)発行者のデメリット
ストックオプションは新株予約権ですので、潜在株式に該当します。したがって、権利行使時は発行済株式数が増えることになりますので、株式の希薄化が生じます。つまり、株価が下落するリスクがあるということになります。
また、会計基準が変わった場合、有償発行のストックオプションであっても、損益計算書にインパクトを与える可能性があります。
4.有償ストックオプションを付与された場合の税務
有償ストックオプションを付与された場合、ストックオプションという権利を購入しただけですので、税務上の課税関係はありません。株式を購入しただけでは課税されないのと同じですね。無償ストックオプションの場合は、権利をタダでもらったため、時価相当額が課税されてしまうというデメリットが生じますが、有償ストックオプションの場合は購入価格自体が時価相当額であれば、課税関係はありません。
単純に、〇個のストックオプションを〇円で購入しましたという取引になります。
5.有償ストックオプションを行使した場合の税務
有償ストックオプションを行使した場合、行使価額により株式を購入します。つまり、株式を購入しただけの状況ですので、税務上の課税関係は生じません。
この場合の株式取得価額は、以下の算式により算定します。
株式の取得価額=権利行使価額×株数+権利行使をしたストックオプションの付与額
この価格で株式を購入しただけですので、売却時まで課税されることはありません。非適格ストックオプションの場合は、権利行使時典で権利行使価額と時価との差額を給与として課税されますが、有償ストックオプションの場合は課税されないんですね。
6.株式を売却した場合の税務
有償ストックオプションの目的となった株式を売却した場合、株式の売却価格と取得価額との差額が譲渡益として課税されることになります。この場合の税率は、20.315%(所得税15%、復興税0.315%、住民税5%)となり、基本的には確定申告をすることになります(特定口座の場合は不要)。
・譲渡益の計算
株式の売却価格-(株式の取得価額+売却手数料等)
7.事例の検証(ペッパーフードサービス)
有償ストックオプションについて色々と見てきましたが、よくわからないというのが実情かと思います。そこで、実際の事例で確認していきます。今回は、平成28年6月14日公表の、株式会社ペッパーフードサービスにおける第7回新株予約権を題材にしていきましょう。
■有償ストックオプションの概要
ストックオプションの発行価格:11.04円/個
目的となる株式数:100株
権利行使価額:1,243円/株
権利行使要件:平成28年12月期の売上高が232億円以上、かつ、営業利益10億31百万円以上
行使期間:平成29年4月1日~平成32年3月31日
同社の平成28年度決算短信によると、売上高223億円、営業利益9億58百万円ということで、残念ながらこのストックオプションは行使することができないものとなってしまいましたが、仮に要件を達成した場合は以下のように計算をしていきます。
■ストックオプションの付与時(課税関係なし)
11.04×100=1,104円 ⇒ 金銭による払込
※ストックオプションの取得価額:1,104円
■権利行使時(課税関係なし)
1,243円×100株+1,104円=125,404円 ⇒ 株式の取得価額
■株式売却時(課税関係あり)
1,798円(※)×100株-125,404円=54,396円
※投稿日時点の株価を使用
■譲渡益課税(便宜上、端数処理は考慮していません)
54,396円×20.315%=11,050円
上記のケースはストックオプションを1個付与された場合の計算ですが、例えばこれが100個あったりしますと、売却益が5,439,600円となり、結構な金額になりますね。
今後も有償ストックオプションは増えていくと想定されますので、もしご自身が有償ストックオプションをご購入された場合は、ぜひ、この記事を読んで確定申告に備えてもらいたいなと思います。
8.有償ストックオプションまとめ
有償ストックオプションは適格ストックオプションと同様に、権利行使時に給与課税がされないというメリットがあります。しかし、発行価格を抑えるために権利行使要件が厳しくなっていることが多く、権利行使できないで終わってしまう可能性も否めません。その場合、ストックオプションの購入費用はパーになってしまいますので、ご注意下さい。
個人的には、無償でストックオプションを付与すると、やる気がない人も受け取ってしまう可能性があるため、有償発行することでやる気がある人だけを集めるというこのスキームは、良いんじゃないかなと思っています。
ただし、課税関係は結構複雑ですので、権利行使をされた方は、一度、税理士か税務署にご相談されることをおススメします。