最近はあまり聞きませんが、ストックオプションの課税に関する裁判が以前は結構ありました。ストックオプションが我が国で浸透し出したのは最近の話ですので、課税庁としても判断が難しかったのかも知れませんね。ただ、最近ではようやくストックオプションに関する課税関係も明確になりましたので、ここでストックオプションの課税関係を確認していきましょう。

ストックオプションに関係がある方はほとんどいないと思いますが、これからストックオプションを取り入れようかな・・・と考えられているような経営者の方にも読んでもらいたいですね。

1.そもそもストックオプションとは?

ストックオプションとは、株式を購入する権利を指します。ストック=株式、オプション=権利ということですね。会計的には、新株予約権とも呼ばれます。通常、このストックオプションは、以下のような形態となります。

・現在の株価よりも「高い価格」で購入する権利を付与
・その価格で購入する権利は〇年間有効

現在の株価よりも高い価格で購入する権利を付与されても困るよ・・・と思われたかも知れませんが、ポイントはこの権利が将来に渡って有効であるということです。

例えば現在の株価が1,000円だったとして、1,500円で購入する権利をもらったとしましょう。今、権利を行使したら500円の損失になりますので、誰も行使しません。すなわち、この時点では損も得もありません。ただ、1,500円で購入する権利を「持っている」だけです。

そして、何年か後に株価が5,000円になったとしましょう。通常は5,000円出さないと株を購入することができませんが、ストックオプションがありますので、なんと「1,500円」で購入することができるのです。これが、ストックオプションの魅力ですね。

ストックオプションで億万長者になるような話を一度は聞いたことがあるかと思いますが、非上場会社のストックオプションを付与されて、上場したような場合は行使価格の何百倍・何千倍となるようなケースもあり、宝くじよりは億万長者への近道かも知れませんね。

2.ストックオプションの課税関係を左右する「適格」「非適格」

さて、ストックオプションで問題となってくるのは課税関係です。以前、ストックオプションに係る所得が一時所得なのか給与所得なのかで揉めた時期があったのですが、現在では、そのストックオプションが「適格」か「非適格」かで課税関係が分かれます。

■適格の場合における課税関係

・権利付与時 → 課税関係なし
・権利行使時 → 課税関係なし
・株式売却時 → 譲渡所得(「(売却価格-権利行使価格)×20.315%」が税金)

適格の場合、株式売却時点まで課税されません。売却時に株式の譲渡所得として譲渡所得税が課せられることになります(確定申告が必要)。

■非適格の場合における課税関係

・権利付与時 → 課税関係なし
・権利行使時 → 給与所得(「時価-権利行使価格」×累進課税)
・株式売却時 → 譲渡所得(「(売却価格-権利行使時の時価)×20.315%」が税金)

非適格の場合、権利行使時に「給与所得」として課税されます。そして、行使した株式を売却した場合、その売却益にたいして譲渡所得税が課税されることになります。ちょっとイメージが沸き辛いかも知れませんが、これはかなり不利だということを覚えておいて下さい。

3.適格と非適格で税金がこんなに違う

次に、適格と非適格でどのくらい税金と手取り額が異なるのかのシミュレートをしていきましょう。以下の例で確認しましょう。

前提)
売却時の時価:4,500千円
権利行使価格:1,500千円
権利行使時の時価:5,000千円
権利行使時の給与所得(全て控除後の課税標準)4,000千円

■適格の場合における課税関係

・権利行使時

課税関係なし

・株式売却時

4,500千円-1,500千円=3,000千円(利益)
3,000千円×20.315%=609千円(税金)※便宜上端数切捨て

・手取り金額

4,500千円-1,500千円-609千円=2,391千円

■非適格の場合における課税関係

・権利行使時

5,000千円-1,500千円=3,500千円(給与所得に加算)
3,500千円+4,000千円=7,500千円(給与所得の合計)
7,500千円×(23%+10%)=2,475千円

ストックオプションがない場合の税額は、4,000千円×(20%+10%)=1,200千円ですので、非適格の場合は権利行使時に2,475千円-1,200千円=1,275千円もの税金が課せられることになります

しかも、権利行使時は株式を売却した訳ではありませんので、手元に株式の売却代金は1円もありません。つまり、ただ給与所得しかなかった状況と何も変わらないのに、1,275千円もの税金を支払わなければならなくなります。

さらに言えば、権利行使価格1,500千円もキャッシュアウトしていますので、総額で2,775千円のキャッシュアウトがあった状況となります。

・株式売却時

4,500千円-5,000千円=△500千円<0 ∴繰り越し

さらに悪いことに、権利行使時よりも売却時の時価が低かった場合、損失分について税金が還付されることはありません(3年間の繰り越しができるだけです)。

・手取り金額

4,500千円-1,500千円-1,275千円=1,725千円

※ただし株式の譲渡損失500千円は繰り越していますので、翌年以降、株式の譲渡所得が500千円までは課税されません。

 

今回の事例では、権利行使時の価格>株式売却時の価格だったため、上記のようになりましたが、仮に株式売却時の時価が6,000円だった場合は、以下のようになります。

この場合は、少し差が縮まりますが、給与課税分を取り戻すのはなかなか難しいですね。

非適格の場合、権利行使時という「担税力がない状況」にも関わらず課税がされてしまうという重大な問題があります。給与所得の税率が20.315%未満の場合は非適格の方が有利になるケースがありますが、基本的には、非適格よりも適格が有利です。ストックオプションを付与する場合、付与された場合は適格かどうかを確認しておきたいですね。

4.適格ストックオプションにするためには

ということで、適格の方が有利であるということは、重々ご承知頂けたと思います。次に、どうすれば適格となるかの要件について確認していきましょう。適格となるか非適格となるかの判定は大きく分けて以下の3点を満たしているかどうかです。

・発行内容要件
・取得者の身分要件
・権利行使要件

1つずつ確認していきましょう。

■発行内容要件

①ストックオプションは無償付与(有償付与は×)
②権利行使価格は付与時の時価以上(付与時点で利益が出ているようなケースは×)
譲渡禁止規定があること(権利の譲渡OKなものは×)
④行使期間が付与決議日後2年~10年までの間(短すぎ・長すぎは×)
⑤権利行使による新株発行等が会社法に定める手続きで行われる(普通は満たす)
⑥権利行使により取得した株式について一定の管理委託契約等がされていること(普通は満たす)

■取得者の身分要件

①会社及びその子会社の取締役・使用人・執行役である個人(監査役等や法人は×
②付与決議時に大口株主(上場:10%超・未上場:1/3超の保有)に該当しない
③付与決議時に大口株主の特別利害関係者(親族等)に該当しない
※これらの者の相続人でもOKなケースもあります(発行要項等によります)

■権利行使要件

権利行使金額の年間合計額が1,200万円以下(1,200万円を超えると×)
②付与時にストックオプションを付与された者が大口株主・大口株主の特別利害関係者でないことの宣誓書を提出
③新株予約権の権利者の他の新株予約権の権利行使の有無(他の権利行使があった場合には、当該行使に係る権利行使価額及びその行使年月日)を記載した書面を提出

5.ストックオプションまとめ

ストックオプションの肝は、いかに適格ストックオプションにするかに尽きます。非適格ストックオプションの場合は、税制面で不利になりますし、お金が無いのにお金を払わなければならないという状況になってしまいます。

・適格ストックオプション

株式の売却時に損益を認識するため、売却年の翌年3月15日までに確定申告をする

・非適格ストックオプション

権利行使時に給与課税がされる。そこで源泉徴収がされていれば、確定申告は不要(されていなければ必要)。売却時は権利行使価格+付随費用を取得価額として売却損益を認識し、売却年の翌年3月15日までに確定申告をする。

どうせストックオプションを発行するのであれば、できるだけ適格ストックオプションになるようにしたいものですね。

 

 

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